原因
NLRP3 遺伝子がコードするクリオピリンは、自然免疫におけるパターン認識受容体であるNOD-like receptorの1つで、pathogen-associated
molecular patterns (PAMPs と言われる病原体特異的な構造体や danger-associated molecular
patterns(DAMPs)と呼ばれる自己由来の炎症惹起物質を認識する細胞内蛋白です。
PAMPsやDAMPsなどがクリオピリンに作用すると、ASC(apoptosis-associated, speck-like protein
containing a caspase recruitment domain )蛋白 および Procaspase-1 蛋白とで NLRP3
インフラマソームと呼ばれる複合体を形成します。その結果、 Caspase-1 が活性化しIL-1β が産生され炎症が誘導されます。 CAPS患者はNLRP3
遺伝子の異常があるため、クリオピリン蛋白が常に活性化してIL-1β が過剰産生されている状態です。CAPSに典型的な臨床像を呈しながらNLRP3遺伝子異常が見られない症例が報告されていますが、その一部はNLRP3
遺伝子異常の体細胞モザイクであることが明らかになっています。
症状
<FCAS・MWS・CINCAに共通の症状>
1:蕁麻疹様発疹
寒冷刺激によって誘発され、痒みを伴わないことが多いです。
2:発熱
寒冷刺激によって誘発されます。
3:関節症状
左右両方の膝・足・肘・手・指関節に病変を認めます。一過性の関節痛から関節変形や関節拘縮に至るまで様々です。
<重症例では、中枢神経の症状が合併します>
1:難聴
特に高音域が聞き取りにくくなり、聾となることもあります。
2:髄膜炎
慢性の髄膜炎が起こり、知能の低下・頭痛・嘔吐・けいれん・麻痺・水頭症が認められます。
3:眼症状
軽症例では結膜炎、重症例では乳頭浮腫や視神経萎縮がみられます。
主な症状 CAPS は軽症の FCAS、中等症である MWS、最重症の NOMID/CICNA に大きく分 類されますが、これらの境界域の臨床像を呈するなど、3
つの病型のいずれかに分類できない場合もあります。
【】
1: FCAS
FCAS は全身の寒冷によって誘発される、蕁麻疹様皮疹、結膜充血、関節痛を伴 34 う発熱を特徴とする疾患でCAPS の中で最も軽症となります。発作時には皮疹 (100%)、発熱(93%)、関節痛(96%)、結膜炎(84%)、頭痛(58%)、嘔気(51%)などの症状を伴います。出生直後から 10 歳くらいまでに発症しますが、95%は生後 6 か月以内に発症しています。症状の誘発に必要な寒冷刺激時間は 5 分〜3 時間(平均52 分)、また寒冷刺激から症状出現までの時間は10分〜8 時間(平均 2.5 時間)と報告されています。
症状はほとんどの症例で24時間以内に自然軽快します(30分〜72時間、平均12時間)
発疹は蕁麻疹に類似していますが、皮疹の病理学的検査では真皮上層の浮腫と血管 周囲性の好中球浸潤が認められ、好酸球浸潤は乏しいかほとんど見られないことが多くあります。
関節痛の部位は、手関節(88%)、膝関節(68%)、足関節(54%)が多く、関節が腫脹することはありません。また筋肉痛がみられる場合もあります。
検査所見では、好中球増多が発作直前または発作開始時から認められ、発作開始後10時間後くらいが好中球増多のピークとなります。赤沈の促進や CRPの上昇も認められます。まれにアミロイドーシスを
発症することがありますが、難聴やリンパ節腫大、漿膜炎は通常おこしません。
2: MWS
MWSは蕁麻疹様皮疹、感音性難聴、アミロイドーシスを 3 主徴とします。小児期から蕁麻疹様皮疹が発作性に出現し、発熱や関節痛、頭痛、腹痛を伴いますが24〜48
時間程度持続し自然に軽快するのが特徴です。この発作を数週間間隔で繰り返します。長期的な経過で 次第に難聴がみられるようになりますが実際には感音性難聴やアミロイドーシスは全例にみられるわけではなく、アミロイドーシスは
10〜50%程度となります。
3) NOMID/CICNA
NOMID/CICNA は CAPS の最重症型で皮疹、中枢神経症状、関節症状を 3 主徴とします。皮疹や発熱は新生児期からみられることが多く、次第に関節症および
関節の硬縮、慢性無菌性髄膜炎や水頭症などを含む中枢神経障害、ブドウ膜炎など が認められるようになります。無治療であれば生活の質は著しく低く、長期生存は困難となります。
皮疹はほぼ全例にみられ出生時に75%に認められます。持続性の蕁麻疹様皮疹で、一日のうちに移動はしますが持続的にみられ生涯持続します。皮膚生検では、表皮下および真皮に好中球を主体とした細胞浸潤がみられ、特に血管周囲に認められ
ることが特徴的です。ただしleucine-rich repeat domain 部に相当するexon 6 の遺伝子変異を原因とするNOMID/CINCAでは皮疹がほとんどみられず、発熱、関
節の異常、発疹は認められなかったと報告されています。皮疹のない例も診断上注意が必要です。
中枢神経症状は、ほとんどの症例で頭痛、慢性髄膜炎が認められます。経過中に 痙攣、IQ 低値、頭囲拡大、大泉門の開大、麻痺、脳波異常など高い頻度で起こります。
関節症状は左右対称性におこり、骨幹端部軟骨の過形成に起因し成長障害を来たします。膝蓋骨が過形成となり、長管骨骨幹端や骨端部が過形成によって幅広くなります。
また鞍鼻が認められ、喉頭軟骨の異常によって嗄声となります。関節痛の程度は症例によりさまざまです。
眼症状では、乳頭浮腫、ブドウ膜炎が多くの症例で認められます。視神経萎縮、失明に至る場合もあるので注意が必要です。聴覚異常の頻度も高く、感音性難聴は半数以上に認められると報告されています。
長期的にはアミロイドーシスを合併しやすく、対症療法のみでは感染症やアミロイドーシスによって成人に至る前に20%程度が死亡するという報告があります。
合併症と予後
NOMID/CINCAでは全身の炎症が強く、無治療では生活の質も著しく低くなり長期生存は困難となります。軽症型であるFCASでも、発熱や頭痛・倦怠感などによって日常生活に支障を来す場合が少なくありません。
また重症例では二次性アミロイドーシスを合併することがあります。
診断と検査
CAPS は治療法が確立されており、徴候や家族歴などによってCAPSが疑 われる場合はできるだけ早期に確定診断する事が望まれます。診断はNLRP3
遺伝子検査によって行われます。
診断および経過観察のための検査はFCAの一部の患者では治療が不要ですが、多くのCAPS 患者ではIL-1阻害薬による治療が必須でそれによって慢性の炎症をできるだけ抑制する事が必要です。定期的に血液検査を行い、末梢血白血球数、好中球数、CRP
値、SAA(血清アミロイド A) 、血沈が正常に近い値で長期的に維持される事が重要です。
この疾患は長期的な経過観察と評価が必要になります。分類にとらわれず、MWS やNOMID/CINCA の徴候の有無について常にチェックをしていく事が必要となります。骨・関節に関しては、整形外科医と協力して関節や骨の状態を評価して骨や関節の画像検査も必要です。
眼科的診察や耳鼻科的 診察も定期的に行うことが望ましいです。
NOMID/CINCA が疑われる場合や、頭痛がみら れる場合には髄液検査が必要で適宜、腎機能の評価や精神運動発達の評価も行うことになります
治療
FCAS の一部の患者では治療が不要ですが、多くの場合はIL-1阻害薬による治療が必須になります
1:イラリス(一般名カナキヌマブ)
IL−1阻害薬。IL-1βに対する中和抗体で、IL-1βの効果を弱める薬です。日本では2011年に保険適応となっています。
2:ステロイド
CAPSは軽症から重症まで幅広いですが、軽症であれば非ステロイド系消炎剤あるいはステロイドの短期投与などで治療可能となります
3:その他のIL−1製剤
IL-1β の阻害薬として海外ではアナキンラ、リロナセプトなどが使用されています。
日本ではカナキヌマブが使用可能であり 極めて有効です
一般にコルヒチンの有効性は認められません。
支援団体「CAPS患者・家族の会」
CAPS患者専用の患者会があります
CAPSについて詳しく知りたい方、当事者家族の方は「CAPS患者・家族の会」へのご連絡をお勧めします