TRAPSはI型TNF受容体(TNFRSF1A)遺伝子変異が原因と考えられる自己炎症疾患です。発症年齢は平均10歳、中央値3歳ですが、1歳から63歳までの幅があると報告されています。症状の似ている疾患として全身型若年性特発性関節炎(systemic JIA)・成人スティル病・ベーチェット病があり、鑑別することが大切です。日本では5家系15例の報告があり、世界全体では100例以上の報告があります。
原因
TRAPSでは、I型TNF受容体異常にTLR刺激が加わる事で、IL-1、IL-6、TNFα/βなどのサイトカイン産生が亢進し、過剰な炎症が持続します。
日本では、C30R、C30S、T61I、C70S、C70G、C88Y、N101Kの7種類の遺伝子異常が報告されています。
この中で、T61I変異は健康な人の約1%とSLE患者さんの約1%に認められ、TRAPSの症状は軽く、他の疾患を合併していることが多いようです。R104Q変異はSLE患者の約2%に認められ、TRAPS患者では変異が認められていません。
多くの患者さんではI型TNF受容体の遺伝子異常が原因となってTRAPSを発症し、家族歴を有します。
一方、一部の患者さんではI型TNF受容体の遺伝子異常が認められません。これらの患者さんでは家族歴が認められないことが特徴で(孤発例と呼びます)、TRAPS発症の原因はよくわかっていません。
症状
1:発熱
患者さんのほぼ全例に認められます。発熱期間は平均3週間(1~4週間)で、発熱の間隔は1〜数カ月と言われています。
2:腹痛
患者さんの約75%に認められます。吐き気や便秘を伴うことがあります。
3:移動性の筋痛
患者さんの65%に認められます。筋炎というよりは筋膜炎による痛みと考えられており、後述するようにCKの上昇は認められません。
4:皮疹
患者さんの約55%に認められます。筋痛に一致して皮疹を認めることが多いようです。
5:眼症状
患者さんの約50%にみられ、結膜炎・眼窩周囲浮腫・ぶどう膜炎が多いようです。頻度は少ないですが、上強膜炎や眼窩蜂巣炎が認められることもあります。他の自己炎症疾患と鑑別するうえで重要な症状です。
6:胸膜炎
患者さんの約30%に認められます。針で刺すようなチクチクとした痛みが特徴で、呼吸や体位によって増悪します。
7:関節痛・関節炎
患者さんの約50%に認められます。関節の変形や破壊はなく、膝関節や股関節などの大きな関節に起こることが多いようです。
その他、心外膜炎・頚部リンパ節腫脹・咽頭炎・扁桃炎・神経症状・血管炎など、多彩な症状を呈します。
症状を誘発するもの
炎症を誘発するとされるものには以下のものがあります
1:精神的ストレス
2:身体的疲労
3:日光刺激
診断
一般的な血液検査で、白血球増多(好中球増多)、CRP上昇、赤沈亢進、補体(C3, C4, CH50)上昇、IgA高値などが認められます。CK(クレアチンキナーゼ)の上昇は認められません。
臨床症状と併せてTNFR1遺伝子変異が認められた場合は、TRAPSと確定診断されます。遺伝子変異を認めない場合でも、血中TNFα増加や可溶性TNFRSF1A/
TNFRSF1B比低下などの所見を認めた場合は、TRAPSと診断されます。
治療薬
1:プレドニン(一般名プレドニゾロン):副腎皮質ステロイドと呼ばれる薬です。発熱発作に対して非常に高い効果がありますが、発熱発作を予防することはできないようです。発熱発作が起こった時に、プレドニンを1mg/kg/日より開始し、7〜10日かけて減量するのが一般的です。副腎皮質ステロイド一般に言えることですが、急に服薬を中止すると、病気が悪化したり薬の副作用が現れるので、必ず医師の指示通りに使用してください。
2:エンブレル(一般名エタネルセプト):TNF阻害薬と呼ばれる薬です。発熱発作に対して効果があるだけでなく、発作の頻度を減少させるため、TRAPSの特効薬として期待されています。成人では25mgを週に2回投与します。副作用として結核などの感染症にかかりやすくなるため、感染予防に努め、定期検査を行います。
3:レミケード(一般名インフリキシマブ):TNF阻害薬と呼ばれる薬です。投与により症状が改善したケースと、症状が悪化したケースが報告されているため、エンブレルの方を好んで使用されるようです。
4:アクテムラ(一般名トシリズマブ):IL-6受容体拮抗薬と呼ばれる薬です。エンブレルが効かなかった患者さんや、エンブレルの効きが悪くなった患者さんの治療薬として期待されています。
5:アナキンラ(商品名):IL-1受容体拮抗薬と呼ばれる薬です。エンブレルが無効であった患者さんや、エンブレルの効きが悪くなった患者さんの治療薬として期待されています。
6:ネオーラル(一般名シクロスポリン)、プログラフ(一般名タクロリムス):免疫抑制剤の一種で、T細胞の働きを抑えます。TRAPSで効果があったとの報告がありますが、第一選択薬はプレドニンとエンブレルが主流のようです。
※一般的にコルヒチンに対する反応性は悪く、家族性地中海熱との鑑別において診断の手掛かりになります。
予後と合併症
患者の約15%に反応性AAアミロイドーシスが合併し、腎不全に至ります。
TRAPS研究班より「TNF-α受容体関連周期性発熱症候群(TRAPS)の診断ガイドライン・案(2012年)」が発表されました
詳しくはこちらの「TRAPS診療ガイドライン」を参照ください
autoinflammatory@hotmail.co.jp